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山形地方裁判所 昭和55年(ワ)4号 判決 1983年2月15日

原告(反訴被告)

三星運輸株式会社

被告

小野保男

被告(反訴原告)

十和運送有限会社

主文

1  被告小野保男及び被告(反訴原告)十和運送有限会社は連帯して、原告(反訴被告)に対し五六〇万一一九四円及びこれに対する昭和五四年八月三一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告(反訴被告)のその他の本訴請求及び被告(反訴原告)十和運送有限会社の反訴請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は本訴、反訴を通じ、原告(反訴被告)に生じた費用の一〇分の九を被告小野保男及び被告(反訴原告)十和運送有限会社の負担とし、その他を各自の負担とする。

4  この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求について

1  請求の趣旨

(一) 被告小野保男(以下「被告小野」という。)及び被告(反訴原告)十和運送有限会社(以下「被告会社」という。)は連帯して、原告(反訴被告、以下「原告」という。)に対し五九五万一一〇四円及びこれに対する昭和五四年八月三一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告小野及び被告会社の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  反訴請求について

1  請求の趣旨

(一) 原告は、被告会社に対し、一四〇万九一八一円及びこれに対する昭和五四年八月三一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 被告会社の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告会社の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求について

1  原告の請求の原因

(一) 被告小野は、昭和五四年八月三一日当時、被告会社の被用者であつた。

(二) 被告小野は、昭和五四年八月三一日午前六時ころ、被告会社の用務のため、被告会社所有の普通貨物自動車(車両番号茨一一四い二二二号)(以下「小野車」という。)を運転し、宮城県亘理郡山元町大平字畑中一二の一番地先の国道六号線道路を原町方面から仙台方面に向けて進行するにあたり、睡眠不足のため眠気を催し、前方を注視して運転するなど正常な運転をすることが困難な状態であつたから、運転を中止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、あえて運転を継続した過失により、仮眠状態に陥り、自車をセンターラインを越えて対向車線に進入させ、折から対向車線を対向進行してきた原告の被用者たる渡辺和夫(以下「渡辺」という。)が運転する原告所有の大型貨物自動車(車両番号山形一一あ一七一九号)(以下「渡辺車」という。)の運転台右後部、荷台右前角付近および右後部タイヤ付近に自車を衝突させ、更に自車を渡辺車に約七〇メートルの車間距離をとつて追随して来た原告の被用者たる佐藤孝雄(以下「佐藤」という。)が運転する原告所有の大型貨物自動車(車両番号山形一一あ二八七二号)(以下「佐藤車」という。)の正面に向けて対向車線上を暴走させ、その結果佐藤車に正面衝突の危険を与え、佐藤をして佐藤車のハンドルを左に切らせることにより佐藤車をその進路左側の路肩から約四メートル道路下の桑畑に転落させ、また更に佐藤車に約七〇メートルの車間距離をとつて追随して来た原告の被用者たる片桐幸男(以下「片桐」という。)が運転する原告所有の大型貨物自動車(車両番号山形一一あ二三一八号)(以下「片桐車」という。)の後部右側のタイヤ三本に自車から飛散した積荷を衝突させ、原告所有の渡辺車、佐藤車及び片桐車に各損傷を与えたものである。

(三) 被告小野は、被告会社の事業を執行するにつき前記事故を惹起したものである。

(四) 原告は前記事故によつて次のとおり合計五九五万一一〇四円の損害を受けた。

(1) 車両損害 二七八万七九六〇円

渡辺車の車両修理費として一五三万九九一〇円、佐藤車の車両修理費として一一八万八二五〇円、肩板代金として四八〇〇円、ベストロープ損料として一万七五〇〇円、片桐車のタイヤ損料として一本当り一万二五〇〇円として三本分三万七五〇〇円の合計二七八万七九六〇円

(2) 貨物損害 五三万二四〇〇円

転落した佐藤車の積荷としての生トマト一ケース当り一〇〇〇円として四七八ケース分四七万八〇〇〇円及び空箱代五万四四〇〇円の合計五三万二四〇〇円

(3) 事故処理費 五四万二五四〇円

佐藤車を転落した地点から路上に引き上げるために要した費用二二万五〇〇〇円、運行不能になつた渡辺車、佐藤車を原告方まで牽引した費用一五万円、生トマト詰替等の人夫費一四万四〇〇〇円、右人夫の食費二万三五四〇円合計五四万二五四〇円

(4) 代車使用費 六万円

本件事故により渡辺車、佐藤車が運行不能となつたことから、事故直後代車二台を使用し、積荷を注文主まで配達した費用

(5) 休車補償費 一五二万八二〇四円

本件事故の翌日から修理のため稼働できなかつた期間中の逸失利益額であり、渡辺車については日額一万八五七一円の三六日分、六六万八五五六円、佐藤車については日額一万八六八八円の四六日分、八五万九六四八円となるので以上の合計は一五二万八二〇四円

(6) 弁護士費用 五〇万円

原告は、昭和五四年一一月一五日、弁護士古澤久次郎、同古澤茂堂及び同菊川明に対して本訴の提起及びその追行を委任し、弁護士費用として五〇万円を支払うことを約束し、同日内金(着手金)として三五万円を支払つた。右五〇万円は本件事故と相当因果関係のある損害である。

(五) よつて、原告は、被告小野に対し不法行為者としての責任に基づいて、被告会社に対し被告小野の使用者としての責任に基づいて損害賠償として被告小野及び被告会社が連帯して五九五万一一〇四円及びこれに対する前記事故の日である昭和五四年八月三一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

2  請求の原因に対する被告小野及び被告会社の認否

(一) 請求の原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、被告小野が昭和五四年八月三一日午前六時ころ、小野車を運転し、宮城県亘理郡山元町大平字畑中一二の一番地先の国道六号線道路を原町方面から仙台方面に向けて進行中、対向進行してきた原告の被用者である渡辺の運転する原告所有の渡辺車の右側面に接触したことおよび渡辺車の後方を追随して来た原告の被用車である佐藤の運転する原告所有の佐藤車が進路左側の路肩から道路下の桑畑に転落したこと、原告の被用者である片桐が運転する原告所有の片桐車が佐藤車に追随して来たことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告小野運転の小野車が前記事故現場において道路のセンターラインを越えて対向車線内に進入したとしてもその越えたセンターラインからの距離は約四五センチメートルであり、仮にそれ以上であるとしても九五センチメートルであるが、右対向車線の道幅は四・四五メートルあり、渡辺車の車幅は二・四九メートルであるから、渡辺車は小野車と接触しないでその左側を優に通過することができる状況であつた。渡辺は渡辺車を運転して時速約五五キロメートルで進行し、約七〇メートル前方に幾分センターラインを越えて対向進行して来る小野車を認め、しかも小野車の速度は時速約五〇キロメートルであつたから、渡辺車を進行車線の左側に寄せるとともに急制動して約二八ないし二九メートル先に停止させるか、渡辺車を進行車線の左側に寄せて小野車とすれ違わせるかして小野車との接触事故を回避すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失がある。したがつて被告小野に過失はない。

佐藤は、佐藤車を運転中前方七〇メートル以上の地点に小野車を認め、その時、同車は極度にセンターラインを越えることなく、しかも直ちに停止したのであるから前方を注視して同車の動静に注意して進行すれば、同車と接触することなく急停止することができたし、仮りに停止しなくとも同車の左側を無事通過できたにもかかわらず自ら極度に佐藤車のハンドルを左に切つたため佐藤車を転落させたものである、したがつて、佐藤車の転落については、佐藤に過失があり、被告小野には過失はない。

被告小野運転の小野車は、片桐車のかなり前方に停車しているところ、片桐車も停車しているのであるから、仮に本件事故によつて片桐車に何らかの損傷が生じたとしても被告小野には、その予見可能性はなく、したがつてそれは被告小野の過失に基づくものではない。

(三) 同(三)の事実は否認する。

(四) 同(四)(1)ないし(5)の各事実は否認し、同(四)(6)の事実は知らない。

同(四)(3)の事故処理費のうち佐藤車を転落した地点から路上に引上げるために要した費用二二万五〇〇〇円とあるが、更にこのうちレツカー二台分代金一五万円は、同(四)(1)の渡辺車及び佐藤車の車両修理費(その中にクレーン代として渡辺車について八万円、佐藤車について七万円が計上されている。)の中に含まれているか、あるいは同(四)(3)の事故処理費のうち渡辺車及び佐藤車を原告方まで牽引した費用一五万円の中に含まれる。また前記佐藤車を転落した地点から路上に引き上げるために要した費用二二万五〇〇〇円のうちワイヤー代、玉掛け人夫代、道路危険手当増しの金額は前記クレーン代に含まれるべきものであり、仮りに然らずとしても特別事情によりて生じた損害というべきである。

(五) 同(五)の主張は争う。

3  被告小野及び被告会社の抗弁

(一) 原告の被用者である渡辺及び佐藤にはそれぞれ本件事故及びその損害の発生について前記2(二)に記載したとおりの過失があり、同じ原告の被用者である片桐には本件事故及びその損害の発生について前方不注視の過失があるから、右各過失をそれぞれその運転していた自動車についての損害賠償額を算定するにあたつて斟酌すべきである。

(二) 被告会社は事故処理費中佐藤車を転落した地点から路上に引上げるために要した費用二二万五〇〇〇円のうち八万五〇〇〇円を支払つた。

4  抗弁に対する原告の認否

(一) 抗弁(一)の事実は否認する。

(二) 同(二)の事実は否認する。

二  反訴請求について

1  被告会社の請求の原因

(一) 渡辺は昭和五四年八月三一日午前六時ころ渡辺車を運転し、宮城県亘理郡山元町大平字畑中一二の一番地先の国道六号線道路を仙台方面から原町方面に向けて進行中、対向して進行して来た被告小野運転の小野車に渡辺車の右側面を接触させる事故を惹起した。

(二)(1) 被告小野運転の小野車が前記事故現場において道路のセンターラインを越えて対向車線内に進入したとしてもその越えたセンターラインからの距離は約四五センチメートルであり、仮にそれ以上であるとしても九五センチメートルであるが、右対向車線の道幅は四・四五メートルあり、渡辺車の車幅が二・四九メートルであるから、渡辺車は小野車と接触しないでその左側を優に通過することができる状況であつた。

(2) 渡辺は渡辺車を運転して時速約五五キロメートルで進行し、約七〇メートル前方に幾分センターラインを越えて対向進行して来る小野車を発見し、しかも小野車の速度は時速約五〇キロメートルであつたから、渡辺車を進行車線の左側に寄せるとともに急制動して約二八ないし二九メートル先に停止させるか、渡辺車を進行車線の左側に寄せて小野車とすれ違わせるかして小野車との接触事故を回避すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失がある。

(三) 原告は渡辺の使用者であるところ、渡辺は原告の事業を執行するについて前記事故を惹起した。

(四) 被告会社は前記事故によつて次のとおり合計一四〇万九一八一円の損害を受けた。

(1) 小野車破損廃棄による損害六〇万円

小野車は被告会社の所有に属するものであるところ、前記事故によつて大破してその効用価値を全くなくしたものであるが、事故当時の小野車の価額は六〇万円であるから、被告会社は同額の損害を受けた。

(2) 積荷の破損による損害五〇万九一八一円

小野車に積んでいた被告会社所有の建材類が前記事故によつて破損したので、右建材類の価格五〇万九一八一と同額の損害を受けた。

(3) 休車補償費三〇万円

小野車の破損廃棄後代りの新車を購入するまで二〇日間を要し、その間に小野車が存在するとすれば一日当り一万五〇〇〇円の純収入が得られたのにこれを失つたものであり、二〇日間とすれば逸失利益の合計三〇万円となる。

(五) よつて、被告会社は、原告に対し、渡辺の使用者としての責任に基づいて前記事故による損害賠償として一四〇万九一八一円及びこれに対する前記事故の日である昭和五四年八月三一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求の原因に対する原告の認否

(一) 請求の原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の各事実のうち被告小野運転の小野車がセンターラインを越えて対向車線内に進入したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実は認める。

(四) 同(四)の事実は知らない。

(五) 同(五)の主張は争う。

3  原告の抗弁

前記事故について被告会社の被用者である被告小野には、小野車の運転にあたり睡眠不足のため眠気を催し、前方を注視して運転するなど正常な運転をすることが困難な状態であつたから運転を中止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠つた過失があつたから、この過失を原告の損害賠償額を算定するにあたつて斟酌すべきである。

4  抗弁に対する被告会社の認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告の本訴請求の原因について検討するに、被告小野は昭和五四年八月三一日当時被告会社の被用者であつたこと、被告小野が昭和五四年八月三一日午前六時ころ小野車を運転し、宮城県亘理郡山元町大平字畑中一二の一番地先の国道六号線道路を原町方面から仙台方面に向けて進行中、対向進行して来た原告の被用者である渡辺の運転する原告所有の渡辺車の右側面に接触したこと、渡辺車の後方を追随して来た原告の被用者である佐藤の運転する原告所有の佐藤車が進路左側の路肩から道路下の桑畑に転落したこと並びに原告の被用者である片桐が運転する原告所有の片桐車が佐藤車に追随して来たことは当事者間に争いがない。

二  成立について争いのない甲第二号証、第一六号証の一、第一八ないし第二三号証、乙第三号証、片桐車を前面から撮影した写真であることが争いのない甲第一六号証の二、片桐車のタイヤを撮影した写真であることが争いのない同号証の三ないし六、証人黒沼信一の証言(第一回)によつて本件事故現場及び事故関係車両の状況を撮影した写真であると認められる甲第一号証、証人古谷野好夫及び同荒井栄治の各証言によつて原本の存在及びその成立の認められる乙第四号証(後記信用しない部分を除く。)、証人渡辺和夫、同五十嵐孝雄、同片桐幸男、同古谷野好夫及び同荒井栄治の各証言並びに被告小野本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する乙第四号証の記載は前記各証拠に照らして信用することができない。

1  被告小野は昭和五四年四月ころ被告会社に入社し、その後貨物自動車の運転手として勤務してきたものであるが、昭和五四年八月三〇日午前一一時ころ被告会社に出勤し夕方まで荷物の積込などの仕事をし、その後一時間位仮眠した後同日午後九時三〇分ころ被告会社の業務としての荷物運送のため木材等の住宅部材を積載した小野車を運転して同僚三名の運転する三台の貨物自動車とともに被告会社を出発し国道六号線を北進して茨城県から福島県内に入つた場所において同月三一日の午前一時二〇分ころから午前四時二〇分ころまで休憩したが、その間一、二時間ほど仮眠をした。被告小野は同日午前四時二〇分ころ小野車の運転を開始し、同車を運転して時速約六〇キロメートルで国道六号線道路を原町方面から仙台方面に向けて進行し、同日午前六時ころ宮城県亘理郡山元町大平字畑中一二の一番地付近にさしかかつたところ、睡眠不足と長時間運転による疲労とが重つて眠気を催してきた。しかし被告小野は、先行する同僚の自動車に遅れまいとして眠気をこらえながら走行しているうちに前記字畑中一二の一番地付近に至つて一瞬仮眠状態に陥り、そのため小野車は自車の走行車線からセンターラインを越えてその車体の右側部分が対向車線にはみ出した状態になつたまま進行し始めた。しかし被告小野は後記のとおり小野車が対向進行して来た渡辺車と接触するまで小野車の対向車線へのはみ出しについては気付かなかつた。

2  渡辺は、渡辺車を運転し前記道路を仙台方面から原町方面に向けて時速五〇ないし五五キロメートルで進行して前記山元町大平字畑中一二の一番地付近に差しかかつたところ、対向車線上を対向して進行して来た小野車が渡辺車の前方へ約七〇メートルの地点においてセンターラインを越え、小野車の右側のタイヤ一本を渡辺車の走行車線へはみ出させた位の状態で進行を開始するのを認めたが、小野車が右のはみ出しの直後に直ちに同車の走行車線内に戻るものと考えたところ、同車はそのまま渡辺車の走行車線にはみ出したままで走行し接近して来るので危険を感じ、減速したうえ小野車との衝突を回避しようとして渡辺車のハンドルをやや左に切つて同車を走行車線の左側に寄せたものの及ばず、小野車は前記はみ出しをしたままの状態で進行を続け、結局前記はみ出しの開始を認めた地点から約三二メートル渡辺車が進行した地点において渡辺車の運転台右後部、荷台右前角付近及び右後部タイヤ付近に小野車の右側前部が接触したうえ、相互に接触面をこすり合つて通過していつた。この接触の時点において小野車は渡辺車の走行車線内に約九五センチメートルはみ出している状況であつた。

3  前記2の小野車と渡辺車との接触地点付近における前記道路の状況は、車道にセンターラインが設けられてあつてその各片側車線の幅員はいずれも三・二五メートルであり、車道の両外側にはそれぞれ白線によつて区切られた幅一・二メートルの路側帯が設けられていた。そして小野車の走行車線からみて左路側帯の外側に一段高くなつて幅員二・二メートルの歩道が設置されている。また渡辺車の走行車線からみて左路側帯の外側は草の生い茂つた斜面となりその先は路面から三、四メートル低い桑畑となつている。路側帯の一部がコンクリート舗装されているほかは、車道、路側帯及び歩道はいずれもアスフアルト舗装されている。なお、前記接触地点付近においては最高速度時速五〇キロメートル、はみ出し禁止の規制がされている。渡辺車の車幅は二・四九メートルであるから、同車は前記接触時点において車道から約二〇センチメートルほど渡辺車の走行車線左側の路側帯内へはみ出している状況であつた。

4  前記小野車と渡辺車との接触後、渡辺車は約五〇メートル進行してやや左を向いて前部左側を左の路側帯外にはみ出させて停止したが、荷台右側部分小破、右後輪取付部変形し走行不能の状態であつた。小野車は右接触後車道のそれまでと同じような位置を前進し続けたが、佐藤車との接触及び擦過により右前部大破、前輪が車軸とともに脱輪している状態であつた。

5  佐藤は、佐藤車を運転して時速五〇ないし五五キロメートルで渡辺車に追随して同車から七〇ないし八〇メートルの車間距離をおいて進行し、本件事故現場にさしかかつたところ、先行する渡辺車と小野車とが前記接触、擦過する音を聞くとともに右接触、擦過の状況を目撃して佐藤車を減速したが、小野車が右接触、擦過後そのまま佐藤車の走行車線にはみ出したままの位置を前輪を脱輪したままの状態で積荷の木材などを飛散させながら対向進行して来るので同車との正面衝突を避けるべく佐藤車のハンドルを左に切るとともに急制動したところ、小野車との接触、衝突を避け得たものの佐藤車は進路左側の路側帯を越えて左側の路肩から三、四メートル下の桑畑に転落し、横転して大破した。小野車は渡辺車との前記接触、擦過の後路上にスリツプ痕を残しつつ四七・五メートル進行して停止したが、そのとき車体前部がセンターラインを越えて約一・五メートル佐藤車の走行車線にはみ出している状況であつた。佐藤車は小野車の前記停止地点を通過した先で前記のとおり路外へ転落したものであるが、その間小野車の積荷である木材等が飛散して佐藤車に当つた。なお、佐藤車の車幅は二・四九メートルである。

6  片桐は片桐車を運転して時速五〇ないし五五キロメートルで佐藤車に追随して同車から七〇ないし八〇メートルの車間距離をおいて進行し本件事故現場にさしかかつたところ、先行する渡辺車と小野車との接触、擦過の音を聞くとともに、直前の佐藤車がハンドルを左に切つて進行するのを認めた直後、小野車が前輪を脱輪させ路面に車体を擦過しながらセンターラインから片桐車の走行車線にはみ出した状態で進行して来たので小野車との衝突を回避するため急制動してやや左にハンドルを切り同車の左側を辛じて通過し左側の路肩の間際で片桐車を停車させた。しかし片桐車は小野車とすれ違つてから右停車するまでの間に小野車の荷台からくずれ落ち散乱していた材木、金物及び小野車の車体の破片などの上を轢過したことにより右側の後輪のタイヤに損傷を受けた。

三1  前記一及び二確定事実によれば、被告小野には小野車を運転中、睡眠不足及び疲労のため眠気を催し、前方注視して運転するなど正常な運転をすることが困難な状態にあつたのであるから運転を中止すべき注意義務があるのにこれを怠つて運転を継続した過失があつたものと認められ、この被告小野の過失によつて被告小野が仮眠状態に陥り小野車がセンターラインを越えて対向車線内にはみ出して進行したため対向車線を対向進行して来た渡辺車と接触、擦過し、小野車はそのまま対向車線にはみ出したまま暴走し、渡辺車の後続車である佐藤車をして小野車との衝突を回避しようとして道路外へ転落するに至らせ、更に佐藤車の後続車である片桐車をして小野車との衝突若しくは道路外への転落を回避しえたものの、小野車の積荷及び同車の車体の破片等を轢過するのやむなきに至らせ、これらの結果として渡辺車、佐藤車及び片桐車に各損傷を与えたことが認められる。

2  前記一及び二確定事実によれば、小野車は前記のとおり対向車線にはみ出して進行したものであり、前記判示のはみ出しの程度、状況、道路の幅員、車両の車幅、小野車及び渡辺車の速度等の事情を考慮すれば、渡辺車と小野車との接触、擦過について渡辺には過失がなかつたものというべきである。また前記一及び二確定事実によれば、渡辺車と接触、擦過の後暴走して来る小野車との衝突を回避するため佐藤車のハンドルを左に切つたことにより同車が道路外へ転落したことについて佐藤には過失がなく、また、佐藤車の後続車である片桐車の運転者片桐が暴走して来る小野車の左側を通過する際に同車の積荷及び車体の破片を片桐車が轢過するに至らしめたことについて、片桐には過失がなかつたものというべきである。

3  以上判示したところによれば、被告小野の過失による小野車と渡辺車との接触、擦過の事実とその後に発生した佐藤車の道路外への転落の事実及び片桐車の道路上の物体の轢過の事実との間には相当因果関係があるものというべきである。

四  前記二確定事実によれば、被告小野は被告会社の事業を執行するについて前記事故を惹起したことが認められる。

五  したがつて、被告小野は前記事故の加害者として、被告会社は被告小野の使用者として、被告小野及び被告会社は連帯して前記事故によつて渡辺車、佐藤車及び片桐車に生じた損害を賠償する義務があるものというべきである。

六  そこで前記事故によつて原告に生じた損害について検討する。

1  (車両損害)

成立について争いのない乙第一、第二号証、証人黒沼信一の証言(第一回)によつて成立の認められる甲第三号証の一ないし四、第四号証の一ないし四、第五、第六、第一七号証、証人黒沼信一(第一回)及び同鈴木清六の各証言並びに前記一及び二確定事実によれば、原告所有の渡辺車は本件事故によつて荷台右側部分小破、右後輪取付部変形、走行不能の損傷を受けたものであるが、その修理費用として一四五万九九一〇円を要する見込みであつたところ、渡辺車の本件事故の直前の評価額は一三六万円であり、結局原告は渡辺車を廃棄処分としたこと、本件事故後の渡辺車の残骸スクラツプとしての評価額は一〇万円であつたから、原告は渡辺車の損傷によつて一二六万円の損害を受けたものであること、原告所有の佐藤車が本件事故によつて大破したことにより原告はその修理費用として一一一万八二五〇円を支払つたこと、また佐藤車の肩板及びベストロープが本件事故によつて損傷したので再調達し、原告は肩板代金として四八〇〇円、ベストロープ代金として一万七五〇〇円を支払つたこと、本件事故によつて原告所有の片桐車のタイヤ三本が損傷したのでその補充のタイヤ三本分の代金として三万七五〇〇円を要することが認められる。右認定事実によれば、原告の本件事故による車両損害は合計二四三万八〇五〇円であるというべきである。

2  (貨物損害)

証人黒沼信一の証言(第一回)により成立の認められる甲第七ないし第九号証、証人黒沼信一の証言(第一回)並びに前記一及び二確定事実によれば、原告が荷主から依頼されて佐藤車に積載して運送していた生トマト四七八ケースが佐藤車の本件事故による転落によつて損傷したため、原告は一ケース当り一〇〇〇円として合計四七万八〇〇〇円を荷主に弁償したほか、同じく右転落によつて生トマトの空箱六八個を損壊されて一個当り八〇〇円として合計五万四四〇〇円を荷主に弁償したことが認められる。したがつて原告の本件事故によつて右の合計五三万二四〇〇円の損害を受けたものというべきである。

3  (事故処理費)

証人黒沼信一の証言(第一回)によつて成立の認められる甲第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二ないし第一五号証、第二四号証の一、二、証人黒沼信一(第一回)及び同横尾忠雄の各証言並びに前記一及び二確定事実によれば、本件事故によつて道路外に転落した佐藤車を道路上に引上げるための費用として二二万五〇〇〇円を要したこと、本件事故によつて運行不能になつた渡辺車及び佐藤車を原告の営業所まで牽引するための費用として一五万円を要したこと、道路外に転落した佐藤車の積荷である生トマトを詰替えて代車に積み替えるための人夫一八人を必要としその人夫賃として一四万四〇〇〇円を要するとともに右人夫の食費として二万三五四〇円を支払つたことが認められる。右認定事実によれば、原告は本件事故処理費として合計五四万二五四〇円の損害を受けたものというべきである。

4  (代車使用費)

証人黒沼信一(第一回)及び同横尾忠雄の各証言並びに前記一及び二確定事実によれば、本件事故により渡辺車及び佐藤車が運行不能になつたことにより右各車両の積荷を代車二台を使用して注文主方まで運送したこと、その代車二台の使用代金として原告は六万円を支払つたことが認められ、これによれば、原告は本件事故によつて代車使用費六万円の損害を受けたものというべきである。

5  (休車補償費)

証人横尾忠雄の証言により成立の認められる甲第二五号証の一ないし一三、証人横尾忠雄及び同黒沼信一(第一回)の各証言並びに前記一及び二確定事実によれば、渡辺車は本件事故によつて損傷し、結局修理されないまま廃棄処分され、その代りの新車が購入されるまでの三六日間は原告において渡辺車に相当する大型貨物自動車一台を使用することができなかつたこと、佐藤車は本件事故によつて損傷を受け、その修理が完了するまでの四六日間は原告において佐藤車に相当する大型貨物自動車一台を使用することができなかつたこと、渡辺車及び佐藤車はそれぞれ原告の運送業務に使用されていたものであり、稼働することによる一日当りの利益額はそれぞれ一万八五七一円及び一万八六八八円であつたことが認められる。したがつて、右認定事実によれば、渡辺車が稼働することのできなかつたことによる逸失利益は六六万八五五六円となり、佐藤車が稼働することのできなかつたことによる逸失利益は八五万九六四八円と認めるのが相当である。そこで、原告は休車補償費として右の合計一五二万八二〇四円の損害を受けたものというべきである。

6  (被告小野及び被告会社の過失相殺の抗弁について)

被告小野及び被告会社は本件事故及びその損害の発生について原告の被用者である渡辺、佐藤及び片桐にそれぞれ過失がある旨主張するが、右三名にいずれも過失がないこと前記三2に判示したとおりであるから、被告小野及び被告会社の過失相殺の抗弁は理由がない。

7  (被告小野及び被告会社の一部弁済の抗弁について)

被告小野及び被告会社は前記3の道路外に転落した佐藤車を道路上に引上げるために要した費用二二万五〇〇〇円のうち八万五〇〇〇円を被告会社が支払つた旨主張し、証人荒井栄治の証言及び同証言によつて成立の認められる乙第八号証の一、二によれば、被告会社が昭和五五年一二月二日株式会社光重機に対し四トントラツク移転、積込、一一トントラツク移動等の費用一五万円のうち八万五〇〇〇円を支払つたことが認められるが、右八万五〇〇〇円が佐藤車を引上げるために要した費用二二万五〇〇〇円の一部であることを認めるに足りる証拠はない。したがつて、被告小野及び被告会社の右主張は理由がない。

8  (弁護士費用)

成立について争いのない甲第二六号証、証人黒沼信一の証言(第二回)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は昭和五四年一一月一五日弁護士古澤久次郎、同古澤茂堂及び同菊川明に対し本訴の提起及びその追行を委任し、弁護士費用として五〇万円を支払うことを約束し、同日内金(着手金)として三五万円を支払つたことが認められる。そこで本件事案の難易、請求額、認容額等諸般の事情を斟酌すれば、原告が前記弁護士三名に支払を約束した弁護士費用五〇万円をもつて本件事故と相当因果関係のある原告の損害額と認めるのが相当である。

七  以上判示したところによれば、被告小野は本件事故の加害者として、被告会社は被告小野の使用者として、被告小野及び被告会社は連帯して、原告に対し前記六1ないし5及び8の損害合計五六〇万一一九四円及びこれに対する本件事故の日である昭和五四年八月三一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものというべきである。

八  次に、被告会社の反訴請求について検討するに、請求の原因(一)の事実は当事者間に争いがない。そして、被告会社は渡辺運転の渡辺車と被告小野運転の小野車との前記接触事故について渡辺に過失がある旨主張するが、前記接触事故について渡辺に過失のなかつたこと前記三2に判示したとおりであるから、渡辺に過失があつた旨の被告会社の前記主張は理由がないものといわざるをえない。

九  したがつて、渡辺車の運転者である渡辺に過失があつたことを前提とする被告会社の原告に対する反訴請求はその他の点について判断するまでもなく理由がないものというべきである。

一〇  以上判示したところによれば、原告の被告小野及び被告会社に対する本訴請求は前記七に判示した限度で正当であるから認容し、その他は失当であるから棄却し、被告会社の原告に対する反訴請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項本文を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下澤悦夫)

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